BLOG

消費税制度が中小企業の正規雇用に不利に働く構造

消費税制度が中小企業の正規雇用に不利に働く構造

赤字でも消費税を納める仕組みと雇用形態への影響

消費税の基本仕組み(課税対象と仕入税額控除)

消費税は、日本国内における商品販売やサービス提供に広く課される間接税で、最終的な負担者は消費者ですshinjuku-kanzeikai.jp。事業者は商品やサービスの価格に消費税を上乗せして販売し、消費者から預かった消費税を税務署に納めますshinjuku-kanzeikai.jp。2025年時点で標準税率は10%(軽減税率は飲食料品等に8%)に設定されていますshinjuku-kanzeikai.jp。この税は利益ではなく取引額に基づいて課され、**「売上に含まれる消費税 - 仕入れで支払った消費税 = 納付する消費税」**という計算構造になっていますzeirishi-noda.com。事業者は自社が仕入れや経費で支払った消費税額(仕入税額)を、自社の売上にかかる預かった消費税額から控除できる「仕入税額控除」の仕組みを持ち、これによって重複課税が避けられ最終消費者の負担が一律になる設計ですshinjuku-kanzeikai.jp。消費税の納税義務がある事業者(課税事業者)は、原則として課税売上から課税仕入を差し引いた残額について税率分の消費税を計算し、申告・納税します(簡易課税など特殊な計算方法もありますが本稿では割愛します)。

課税対象と非課税取引の整理

消費税法上、課税対象となるのは「国内で事業者が事業として対価を得て行う資産の譲渡・貸付けや役務の提供」ですshinjuku-kanzeikai.jp。この要件に該当しない取引や、法律で特に消費税を課さないと定められたものは課税されません。例えば、以下のような取引は**非課税(または不課税)**扱いとされていますshinjuku-kanzeikai.jpkoyano-cpa.gr.jp

  • 土地の譲渡・貸付(※1か月未満の短期貸付や駐車場等は課税)shinjuku-kanzeikai.jp
  • 有価証券の譲渡や預貯金の利子、保険料など金融取引shinjuku-kanzeikai.jp
  • 社会保険医療(健康保険適用の診療)や介護保険サービス、社会福祉事業等shinjuku-kanzeikai.jp
  • 学校教育にかかる授業料や入学金、住宅の貸付け(居住用家賃)などshinjuku-kanzeikai.jp
  • 給与・賞与(雇用契約に基づく労働の対価は事業取引の対価ではないため、課税対象外の不課税取引koyano-cpa.gr.jp

上記のような非課税取引には消費税がかからない一方、それらの取引に要した仕入にかかった消費税は原則控除できませんshinjuku-kanzeikai.jp。そのため、非課税売上が多い事業者(例:医療・介護・教育機関など)は、仕入段階の消費税を自社で負担するケースが生じます。この点が消費税制度上の留意点で、課税の公平性や事業者負担に関する議論にもつながっています。

赤字でも消費税を納めなければならない理由

中小企業や個人事業主にとって、「決算上は赤字(損失)なのに消費税の納税額が大きい」という状況がしばしば起こりますzeirishi-noda.comzeirishi-noda.com。これは前述の通り、消費税が利益ではなく課税取引高に基づいて計算される税金だからですzeirishi-noda.comzeirishi-noda.com法人税や所得税ならば赤字(課税所得がマイナス)であれば納税は生じませんが、消費税はたとえ利益が出ていなくても課税売上があれば原則として納税義務が生じますzeirishi-noda.com。特に人件費や諸経費が嵩んで赤字になっている場合でも、売上に含まれる消費税額から仕入控除できる消費税額を差し引いた残額を納めねばならないためです。

具体的な例を挙げます。ある小規模企業の決算が「売上2,160万円、経費合計2,204万円(内訳:課税仕入1,080万円、役員報酬500万円、従業員給与300万円、家賃324万円)」だったとしますzeirishi-noda.comzeirishi-noda.com。経費が売上を上回るため損益は▲44万円の赤字ですが、この期の消費税計算では以下のようになりますzeirishi-noda.comzeirishi-noda.com

  • 売上にかかる消費税(預かった消費税):2,160万円の売上のうち消費税相当額が約160万円zeirishi-noda.com
  • 仕入・経費で支払った消費税(控除対象):課税仕入1,080万円に対する消費税80万円+事務所家賃324万円に含まれる消費税24万円=計104万円zeirishi-noda.com
  • 消費税納付額:160万円 - 104万円 = 56万円zeirishi-noda.com(→赤字決算でも56万円の消費税を納税)

このように決算上は赤字でも消費税は56万円も払わなくてはいけませんzeirishi-noda.com。赤字の主因は役員報酬や給与といった人件費でしたが、これら支出には消費税がかからず仕入税額控除の対象にもなりません。「給与には消費税はかからない」ため、人件費でいくら損失が出ても消費税計算上は考慮されず、売上に対応する消費税の一部を納める必要が生じてしまうのですzeirishi-noda.com。要するに人件費等で赤字になっても、それら支出では消費税が減免されないため、赤字でも消費税の納税義務が発生するという仕組みですzeirishi-noda.comzeirishi-noda.com。中小企業では人件費や地代家賃の負担が重く利益が出にくい場合に、この「赤字でも消費税納税」のケースに陥りやすいと言えます。

正規雇用より派遣社員の活用が消費税上有利になる仕組み

消費税の制度設計上、自社で雇用した正社員に支払う給与と、外部の人材派遣会社・業務委託先に支払う費用とで、消費税の扱いに大きな差異があります。前述のとおり給与・賞与など雇用契約に基づく支払いには消費税が課されず仕入税額控除もできませんが、派遣会社への支払い費用や外注費(請負契約に基づく報酬)には通常10%の消費税が課され、支払い側の企業はその消費税分を仕入税額控除できますkoyano-cpa.gr.jptakeuchi-kaikei.com。この違いにより、同じ「人件費」でも社内正社員に払う場合と外注する場合とで実質的な消費税負担額が変わってきますtakeuchi-kaikei.com

図:正社員給与支払いと外注費支払いにおける消費税計算の違い(概略)
上の図は、ある企業が同額の人件費300万円を支出するケースについて、「正社員に給与として支払う場合」と「外注費(派遣社員の派遣料等)として支払う場合」の消費税計算を比較したものです。**左のケース(給与)**では、人件費300万円には消費税がかからないため仕入税額控除の対象になりません。その結果、売上に対する消費税から原材料など他の仕入に含まれる消費税を差し引いただけでは控除不足となり、差額分の消費税(図の例では約40万円)を納めることになりますsakurauchi.jp。**右のケース(外注費)**では、人件費相当の支払い300万円に対し30万円の消費税が課されていますが、支払い側企業はその30万円を仕入税額控除できます。したがって売上に対する消費税から控除できる額が増え、納付すべき消費税額は大幅に圧縮されます(図の例では約10万円の納税で済む)sakurauchi.jp。このように、外部人材の活用(外注化)によって消費税負担を軽減できるのが現行制度の特徴ですtakeuchi-kaikei.com

※参考:上記の図では簡略化のため売上・仕入に伴う消費税額を仮定計上していますが、一般に正社員給与部分については消費税控除ができない分だけ「その人件費の10%相当額が納付税額に上乗せされる」イメージになりますsakurauchi.jp

上述の差異を整理すると、正社員の人件費は消費税法上「課税取引ではない支出」であり控除不能であるのに対し、派遣・外注の費用は「課税仕入」として扱われ控除可能という対比になりますkoyano-cpa.gr.jptakeuchi-kaikei.com。まとめると次の通りです。

  • 正社員の給与 – 消費税の非課税(不課税)取引扱い。支払っても仕入税額控除できないkoyano-cpa.gr.jp
  • 派遣社員の費用 – 消費税の課税仕入れ扱い。派遣会社等に支払った消費税分を仕入税額控除できるtakeuchi-kaikei.com

この仕組みにより、人件費にかかる消費税コストを考えると自社雇用よりも外注化・派遣化した方が有利になり得ますtakeuchi-kaikei.com。実際、企業の立場では正社員の給与を増やすとその増額分の10%だけ消費税の納付額が増えてしまうため、税率が高いほど賃上げや正規雇用増員に慎重になるインセンティブが働きますsakurauchi.jpsakurauchi.jp。特に消費税率が10%になった現在では、「それなら代わりに派遣社員や業務委託に置き換えて支出すれば、法人税の節税にもなり消費税も増えない」という判断を企業が取りやすくなりますsakurauchi.jp。このような現行消費税の存在は、正社員より非正規社員を増やす要因の一つになっていると指摘されていますsakurauchi.jp

消費税制度をめぐる逆進性・雇用インセンティブ等の議論

消費税を巡っては、制度設計上の課題や政策的な議論も数多く存在します。まず挙げられるのが逆進性の問題です。消費税は一律の税率で広く消費に課税されるため、所得の低い人ほど収入に占める消費支出の割合が高く、結果的に税負担率が高くなる傾向がありますenegaeru.com。実際、日本では消費税率引き上げの度に低所得層への負担増が懸念され、2019年の10%への増税時には生活必需品等を8%に据え置く軽減税率制度が導入されましたenegaeru.com。軽減税率は一定の緩和効果を持つものの、高所得者も恩恵を受けるため逆進性対策としては不十分との指摘もありますenegaeru.com。このため、給付付き税額控除(低所得者に現金給付して実質的に消費税負担を補填する案)など、より効率的に逆進性を緩和する政策も議論されていますenegaeru.com

次に、企業の雇用・投資行動への影響です。先述したように、消費税は企業にとって正社員への人件費支出に事実上10%のコスト上乗せ効果をもたらし、賃金引上げや正規雇用拡大のインセンティブを削ぐ側面がありますsakurauchi.jpsakurauchi.jp。一部の専門家は、これは日本型消費税制の設計上の誤りであり、欧州型の付加価値税には本来ない欠陥だと指摘していますsakurauchi.jp。同様に、設備投資に伴う減価償却費についても正社員人件費と同様にその10%分だけ消費税負担が増える仕組みになっており、投資を抑制する効果があるとの指摘もありますsakurauchi.jp。これらの問題に対しては、消費税法を改正して人件費部分の課税上の扱いを見直すことで是正が可能であるとの意見もありますsakurauchi.jp。例えば、人件費相当額について何らかの控除措置を導入すれば、正社員雇用と外注との税負担差を解消できるかもしれません。ただし、消費税は基本的に「付加価値(付加された利益と人件費)に課税する」という発想で設計されているため、制度変更には慎重な検討が必要でしょう。

さらに、中小事業者への影響も実務上の大きな論点です。年間売上高1,000万円以下の事業者はこれまで消費税の納税義務が免除される「免税事業者」とされてきました。しかし、2023年10月から導入されたインボイス制度の下では、免税事業者であっても適格請求書発行事業者として登録すれば消費税の申告・納付義務が生じますtakeuchi-kaikei.com。取引先からインボイス発行を求められてやむを得ず課税事業者になる小規模事業者も多く、免税のメリットを失う代わりに消費税負担が新たに発生するケースが増えています。このように零細企業にも消費税を負担させる一方で、輸出大企業には巨額の消費税還付金が支払われている現状を不公平だとする批判的な意見もありますwjsm.co.jp(※輸出取引は消費税が課税されない代わりに仕入税額の還付を受けられるため、輸出比率の高い大企業ほど還付額が大きくなります)。例えば**「赤字の零細企業からは容赦なく税を徴収するのに、空前の利益を上げている輸出大企業には多額の還付金が支払われるのは不公平ではないか」**といった指摘ですwjsm.co.jp。消費税の税収は社会保障財源にも充てられているため一概に「大企業優遇」と断じることはできませんが、負担のあり方として議論になる点ではあります。

まとめ

  • 消費税は利益ではなく取引額に基づく税であり、事業が赤字でも課税売上があれば納税義務が生じますzeirishi-noda.com。利益計算と消費税計算は無関係なため、人件費などで赤字になっても売上に対する消費税は納める必要がありますzeirishi-noda.com
  • 給与や役員報酬など雇用による人件費には消費税がかからず控除不可のため、人件費が大きい企業ほど消費税の負担割合が相対的に高くなりますzeirishi-noda.com。赤字でも消費税を納める事例の背景には、人件費や非課税支出によって控除できる消費税が不足することがあります。
  • 派遣や業務委託費は消費税課税の仕入取引となるため、支払った消費税を差し引けますtakeuchi-kaikei.com。同じ支出額でも正社員給与より外注費の方が消費税負担を軽減できるため、企業にとって派遣社員の活用が消費税上有利な構造になっていますtakeuchi-kaikei.comsakurauchi.jp
  • 消費税の逆進性も重要な論点です。一律税率ゆえ低所得者ほど可処分所得に占める負担が重くenegaeru.com、軽減税率の導入や給付付き税額控除の検討など逆進性緩和策が議論されています。enegaeru.comenegaeru.com
  • 正規雇用を増やしにくい構造中小企業への負担についても課題視されています。消費税率の上昇は企業に賃上げや人件費増を躊躇させる要因となりsakurauchi.jp、派遣・非正規の増加要因と指摘されます。またインボイス制度施行により小規模事業者にも消費税負担が波及しつつあり、税負担の公平性を巡る議論が続いていますtakeuchi-kaikei.comwjsm.co.jp

参考文献・情報源: 消費税法の概要(国税庁)shinjuku-kanzeikai.jpshinjuku-kanzeikai.jp、税理士による解説記事zeirishi-noda.comzeirishi-noda.comtakeuchi-kaikei.com、政策提言・研究レポートsakurauchi.jpenegaeru.comなど.

関連記事一覧

  1. この記事へのコメントはありません。